第2話:そしてキックオフの笛が鳴った( 1999/07/31 )
試合当日の土曜日。
私はあらかじめ休みを取っていたのに、
ダンケさんは「夕方まで仕事」ときた。
仕方なく、夏休み中の子悪魔たちを連れていくことになる。
向かう先は稲城市の日大グラウンド。
乗り換えなしの直通電車が20分おきに来る。
渋滞もなく、帰りは寝て帰れる。
迷わず電車を選んだ。
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今回の試合は、日大ラグビー祭の一幕だった。
夏合宿前の恒例行事で、
OBも学生も入り乱れての7人制大会、
若手OBと現役の試合、
そして“古参OBの相手役”として、我がチームに声がかかった。
日大は学生選手権の常連。
OB・現役の結束も固く、
クラブハウスも芝のグラウンドも立派だ。
聞けば、春はウエイト中心でボールを触るのは週1回。
そのおかげで芝がすくすく育ち、
秩父宮よりいいんじゃないかと思うほど。
河川敷で鍛えた我がチームは、
そんな話を聞くだけで二つ返事で試合を受ける。
暑さなんて関係ない。
芝の匂いがするだけで、身体が勝手に前へ出る。
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11時過ぎに到着すると、前座の試合が始まっていた。
着替えようとすると、子悪魔たちは何も言わずに
本部テント脇の子供用プールへ一直線。
氷水で冷やしたジュースや果物があるらしい。


たくましい。
誰に似たのか——
少なくとも私ではないと思いたい。
ネットで決起を宣言した手前、
この日は気持ちが違った。
2週連続で河川敷に出て、
平日の夕方にも少し走った。
ヘッドキャップをつけ、
古傷の左ヒザを丹念にテーピングしていると、
胸の奥がじわじわ熱くなる。
そして——
キックオフの笛が鳴った。
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開始早々、2トライを奪われる。
だが我がチームも食らいつく。
フォワードが持ち込んでトライを返し、
さらに敵陣でボールが回ってくる。
独走。
ほんの一瞬のはずなのに、
本人には永遠のように長く感じる。
タックルを受けながらもポイントを作り、
バックスにボールが渡り、
ウイングがトライ。
同点。
だが、ここでガス欠。
ロックに入ったせいか、
スクラムからのブレイクが遅れ、
ノタノタ歩く場面が増えていく。
そして、豪快に突進してくる選手がいた。
どこかで見た顔だと思ったら——
日大監督、往年の名ロック 阿多さん。
結果は24–29。
ホストチームが接戦をものにした。
来年も“ご招待”は間違いないだろう。

試合後、子悪魔の年長にこう言われた。
「みんな走ってるのに、パパだけ歩いてたよ。」
トホホ。
開始早々の突進だけは見てほしかった。
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帰りの電車。
私の両側に陣取った子悪魔たちは、
遊び疲れてすぐ舟をこぎ始めた。
片方は私の腹を枕にし、
もう片方は私のTシャツでよだれを拭く。
たくましい。
本当に、たくましい。
そして私は、
芝の匂いと汗の余韻を胸に、
静かに目を閉じた。
「白パンツ無頼控頼控え」の物語は、
ここからさらに熱を帯びていく。
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