📘 第一章:原点と胎動
2026/01/12
— 勝鬨橋から始まる物語 —
昭和の終わり、勝鬨橋の朝に立っていた私は、
まだ自分がどんな人生を歩むのか知らなかった。
魚河岸の匂いと潮風の中で、
静かに“物語の胎動”が始まっていた。
🐟 第1話:築地の朝とセリ場の鉄の掟
会社が用意してくれたのは、勝鬨2丁目の交差点にあるワンルームマンションだった。
1階には不動産屋と喫茶店が入り、4階の私の部屋はエレベーターの真ん前。
社会人一年目にしては、できすぎた“城”だった。
毎朝4時過ぎに起床する。
まだ街が寝静まっている時間帯、私は勝鬨橋へ向かって歩き出す。
春先の冷たい空気の中、橋の上だけはどこか湿り気を帯びていた。
勝鬨橋を渡りはじめると、
最初はかすかだった“サカナの匂い”が、
一歩、また一歩と市場に近づくたびに濃くなっていく。
潮の香りと混ざり合い、
まだ暗い空の下で、築地がゆっくりと目を覚ましていくのがわかる。
当時は都営大江戸線なんて影も形もない。
この10分間こそが、 学生気分を脱ぎ捨て、
「魚河岸の男」へと自分を切り替えるための、
小さな、しかし確かな“儀式”だった。
事務所に着くと、作業服に着替える。
そして5時半のセリ開始の30分前には、
必ずセリ場に立っていなければならない。
それが、この世界の鉄の掟だった。
潮風と生臭い空気が混ざり合う築地の朝。
その中で私は、
自分がどこへ向かうのかもわからないまま、
ただひたすら前へ進んでいた。