🏁 第一章・エピローグ:潮風の中で始まった物語
築地で働き始めたあの春から、
私の毎日は潮風と生臭い作業服の匂いに包まれていた。
勝鬨橋の朝に始まり、
セリ場の喧騒に揉まれ、
黒皮カジキの重さに背筋を軋ませ、
フォークリフトの恐怖に身をすくませる。
夕暮れの勝鬨橋では、
働き終えた身体を昭和の灯りがそっと包み込んでくれた。
その合間に、
彗星のように眩しい存在とすれ違い、
重力を持った巨星の背中を目にした。
築地という場所は、
ただ魚を扱うだけの場所ではなかった。
若い身体に、
時代の匂いと、
大人たちの背中と、
自分の未熟さと、
そして“これから始まる何か”を——
静かに刻み込む場所だった。
汗をかき、
荷を運び、
背中で仕事を覚える。
気づけばそれが、
“青春”と呼べるものになっていた。
潮風の中で始まった物語は、
ここから静かに、しかし確かに新しい季節へと向かっていく。
六月の夜——新宿の厚生年金会館での再会。
あの「御意!」が、私の人生の軌道を変えることになるとは、
この時の私はまだ知らなかった。
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